大久保 一般的に、人を見下す気持ちがあったとしても、表に出しちゃいけないものじゃないですか。それなのに、これだけストレートに顔の造形についてひどく書かれてるから、つい笑っちゃうんですよ(笑)。セックス描写も生っぽいけど、笑える箇所がいくつもあって、私の中ではエンタメでした。

遠野 それはよかったです。

大久保 文章も読みやすいですし。

遠野 読みやすさには、けっこうこだわっているんです。中学生が読めるくらいにしようと、難しい漢字を使わないようにしています。

大久保 ただ、言葉や表現はやさしいけど、世界観はドロドロしてるからな。その加減が面白いんだけど、中学生は読まないほうがいいかもしれないね。

遠野 そうですね。(笑)

 

人は誰しも、ヘンな部分を持っている

大久保 芥川賞を受賞した『破局』も面白かったです。性欲が強い話って好きなんですよね。

遠野 ありがとうございます。

大久保 主人公の男性が温かい飲み物を女の子のために買いに行ったけど売ってなくて、そしたら涙が溢れてきたから理由を考えてみたけれど思い当たることはないし、泣く必要はなかった──と、けろっとして彼女のもとへ戻るっていうシーンがあるじゃないですか。思わず、なにそれ! って、突っ込みましたよ。

遠野 (笑)

大久保 なにそれって思うけど、そういうことって無きにしも非ずだなっていう、ちょっとひっかかる部分が面白いんですよね。こういう感情は遠野さんにもあったりするんですか?

遠野 私はあまり実体験をもとに書くタイプではないので。あくまで書き手として、距離をとって書いています。でも一人称で書いているからか、「作者もそんなふうに考えてるんでしょ」と言われて傷つくこともあります。

大久保 本しか情報がないから、そう思っちゃう人もいるかもね。いま、かなり誤解されていると思いますよ。

遠野 されてますよね。『破局』の主人公のように共感能力がない人間なのだろう、とか言われたりします。