「私はあまり実体験をもとに書くタイプではないので。あくまで書き手として、距離をとって書いています。でも一人称で書いているからか、「作者もそんなふうに考えてるんでしょ」と言われて傷つくこともあります」(遠野さん)

大久保 ご自身に何かコンプレックスはあるんですか?

遠野 いろいろありますよ。それこそ、きれいな人を見ると、ちょっと気持ちが沈んだりすることもありますし。「こんなにきれいな人がいるのに、俺はなんなんだ」とか。

大久保 自分に暴力性はあると思います?

遠野 ないと思います。誰かを殴ったこともないですし。でも、ないと言っている人に限って危ないですよね。

大久保 そうね。

遠野 でも、そういうシーンを小説に書くことで、暴力性を発散しているのかもしれません。

大久保 その説明はうなずけます。

遠野 だから書くのをやめちゃうと、そういう人間になってしまうかもしれないですね。

大久保 遠野さんの小説には、まともな人があまり出てこないじゃないですか。でも人って誰しも、ぺらっとめくってみたらヘンな部分やダメさを持っている。女性の書き方も生々しくリアルだし、普段から人をよく見てるんですか?

遠野 そんなに見ていないと思います。積極的に人とかかわりたいというタイプではないので。

大久保 人と何かを共有して話したくなることはないの?

遠野 たまにありますけど。「これ面白いな、誰かにしゃべりたいな」と思うのはせいぜい1、2分なので、その瞬間を過ぎれば、もういいかな、みたいな。

大久保 ふ~ん、早いね(笑)。でも、それで問題がないんでしょ。

遠野 そうですね。健康的な精神状態です。大久保さんはひとりの時間は好きじゃないんですか?

大久保 大好きですね。親友のいとうあさこさんとの旅行でも、2泊目くらいでイライラしてくるし。だから、ひとりの時間もありつつ、寂しいときには気をつかわずに済む人が来てくれて、こっちが満足したら帰ってくれるっていうのが一番いいね。

遠野 一番いいですね。

大久保 でもそういうのって、なかなか通用しないみたいだよね。

遠野 そうですね。相手も人間だから難しいですね。