大久保佳代子さん(右)と遠野遥さん(左)(撮影:言美歩)
第163回芥川賞を受賞した遠野遥さん。デビュー2作目での栄誉となりましたが、大久保佳代子さんは第1作から注目していたそうです。受賞を機に初めて対面した大久保さんが、知られざる作家の素顔に迫ります(構成=篠藤ゆり 撮影=言美歩)

あらっ、普通の人じゃないですか

大久保 芥川賞受賞、おめでとうございます。

遠野 ありがとうございます。大久保さんが、私のデビュー作『改良』の書評を書いてくださったときはびっくりしました。

大久保 『STORY』という女性ファッション誌で書評連載をしているものの、実は読書家というわけではなくて。昔から本は読んでいたけれど、小難しいものは苦手。エンターテインメント感のあるものが好きなんですよ。

遠野 私の小説はエンターテインメント感はないので、珍しいものを手に取ってくださった、という感じなんですね。

大久保 本当のことを言うと、編集者から「読んでイヤなら書評はいいです」と『改良』をおすすめされまして。でも読んでみたら面白い。どんな人が書いているんだろう、と興味が湧きました。

遠野 あぁ、そうだったんですね。

大久保 『改良』の主人公の男性が、ある女性の顔について心の中で「鼻は下向きの矢印のようなかたちをしていて気持ち悪い」などと思う様子が、まあひどく書かれているじゃないですか(笑)。そういう目線で私も見られるのかな、傷つけられるのかな、と思いながら今日は来ました。

遠野 そんなことはないです。

大久保 そもそも、私のことは知ってます?

遠野 もちろん知ってます(笑)。子どもの頃、『めちゃ×2イケてるッ!』を見て育ったので。

大久保 あらっ、普通の人じゃないですか。(笑)

遠野 作品と作者は別なので。私は、テレビも見る普通の人間です。

大久保 ほんとですか? こういう作品を書く人だから、天真爛漫なタイプじゃないだろうし、世の中をひねくれた目線で見て生きているんだろうし。

遠野 いやいや、普通です。『改良』では、美しいものに憧れる醜い男を書きたくて。そういう人間はこういうふうに考えるのかな、と想像で書きました。