ウズベキスタンの伝統的なパン「ノン」と、ノン職人のシェルさん(撮影:本社写真部)
〈本日、『行列のできる法律相談所』に登場!〉『婦人公論』の好評連載「藤原しおりの TOKYOで世界一周」。ブルゾンちえみ、改め藤原しおりさんが、毎回、東京近郊に息づく世界各国のカルチャーや、人々の暮らしを藤原しおりさんがレポートします。今回は「春日部でウズベキスタンのノンづくり」。伝統的なパン、ノン作りを体験します。(撮影=本社写真部)

〈中央アジアに位置するウズベキスタン。世界遺産にもなっている美しいイスラム建築群で知られ、シルクロードの宝石ともいわれる。主食はこの丸いノン。 これがないとウズベク人の食卓は始まらない!  埼玉県春日部市にある「シルクロードベーカリー シェル」の工房にお邪魔しました〉

「ノン」を持つ藤原しおりさん

延々食べ続けてしまうんじゃないか?

「ノン屋の嫁になったら絶対ダメだ!」。焼き立てノンを頰張りながら私は思った。外はカリッ、中はモチッ。シンプルなんだけど不思議と飽きない。このまま延々食べ続けてしまうんじゃないかと恐怖を感じさせるくらいに、ノンは美味しくてたまらなかった。

美味しさもさることながら、ノンの特徴はなんといってもその見た目。一つ一つ丁寧に付けられた模様は、食べるのがもったいないくらいに美しい。店によって味も模様もさまざまで、なかには店の電話番号を模様にしているものもあるらしい。競争の激しいウズベキスタンのノン業界では、絶えず新しい工夫がなされているそうだ。

ノンが日本で食べられるのも、ノン職人シェルさんご夫婦の努力があったから。来日後、日本でどうしてもノンが食べたくなったシェルさん。でも本国のような窯はなく、悩んだ挙句、素焼きの植木鉢を改造して焼いてみたら、これが大成功。美味しいノンが焼けたと同郷の仲間に配ったところ、「ずっと作り続けてくれ」と懇願され、今に至るそうだ。

「朝早い仕事だからやりたくなかったんですけどね(笑)」。そんな言葉とは裏腹に、部屋の温度や湿度を細かく調節し、自分のことより常に生地最優先で行動するシェルさんの姿からは、仕事への強い愛を感じた。