イラスト:曽根愛
子どもがいくつになっても親の心配は尽きません。ピンチとなると、手を差し伸べずにはいられないのです――(「読者体験手記」より)

歴史好きな娘が志したのは

今から10年ほど前、「歴女」がブームになった。歴女とはいわゆる「歴史好きな女性」のこと。当時、中学生の娘も、歴女のひとりだった。とある武将に恋い焦がれ、神のように崇め奉る。挙げ句、高価な模造剣までねだられた。

歴女魂が高じてか、娘は、戦国史を研究し、大学教授になると言い出す始末。しかし、反対する理由など何もない。私は、協力態勢を整え、大手予備校に通わせるため大金を使い、暗い夜道を迎えにも行った。

その頃の娘は、教師から薦められて「クロニック」というシリーズの歴史の本を日々読みふけっていた。カラー図版が多いせいか、値段は安くても1万4000円、高いものだと1万7000円もする。ページ数も多く、両腕で抱え込まないと運ぶのも難しい代物。それを大事そうに胸に抱き、リビングと自室を行き来する。そんな娘の姿を眺めながら、ずいぶん熱心なことだと感嘆した。

学業に励んだ結果、難関大学の史学科に合格。研究者を目指し、本格的に学んでやるぞと意気込んでいたに違いない。しかし、絶好調なときほど落とし穴がある。

それは、入学直後のクラスメイトへの自己紹介から始まった。戦国時代への熱い想いと将来の夢を語った娘。教授になってみせると高揚感に浸っていた。だが次の人が、なぜか娘を鋭い目つきで睨んでくる。「私も戦国時代が大好きで、史学科に入りました」。彼女も歴女であり、娘をライバルとみなしたのだ。