娘から返ってきた言葉は

ある日、とうとうご飯が食べられなくなった。一粒の米を、箸の先で摘む。口の前まで運んでも、どうしてもそれを口の中に入れられない。私は、もはやこれまで! と自分の太ももをぴしゃりと叩きたい気持ちになった。食事ができなければ娘は死んでしまう、心療内科に連れて行かねば!

知り合いの医師に相談し、大学病院の心療内科宛てに紹介状を書いてもらった。それを見せながら娘に話をする。すると意外な言葉が返ってきた。「私一人で心療内科に行ったのよ。でも、出された薬は飲んでいない。気が合わない先生だったから、お母さんが薦めてくれる病院に替えたい」。

大学病院で娘は、不安感を緩和する漢方薬を処方してもらった。しだいに元気を取り戻し、大学も卒業。今では一般企業で社員として、楽しそうに日々を送っている。薬ももう飲んでいない。

考古学者になる夢は手放してしまったが、平凡な暮らしこそ、娘のことを心配し続けた私にとっては、奇跡以外のなにものでもない。


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