「第3回Knock Out~競技クイズ日本一決定戦~」(CS放送・ファミリー劇場)にて、クイズ中の徳久倫康さん
哲学者の東浩紀さんが会社をつくり、10年間の挑戦を綴った『ゲンロン戦記』が話題を呼んでいる。哲学の実践を目指すなか、その道のりは予期せぬ失敗やトラブルの連続だった。2018年末、社内の混乱が頂点に達し、会社を解散しようとした東さんに、「困ります。続けるべきだし、続けたい」と言った最古参社員がいた――。ゲンロンの激動の時代を見つめてきた徳久倫康さん(現取締役)に寄稿してもらった。

「押してから考える」スキル

ぼくはクイズを趣味にしている。なかでも早押しクイズを中心とした、いわゆる「競技クイズ」のプレイヤーで、全国の大会に頻繁に足を運んでいる。「クイズ王」としてテレビ番組に呼ばれたこともある。

早押しはたんに多くのことを知っていれば勝てるというものではなく、得点状況の判断や問題傾向からの類推、相手の得意ジャンルや戦略の把握など、さまざまな要素を複合したうえでの判断が求められる。意外と重要なのは、早押しボタンを押してから答えを口にするまでの時間、すなわち「シンキングタイム」の使い方だ。テレビのクイズ番組だと、「押してから考える」のはズルい行為とみなされることが多い。ぼくも収録で怒られたことがある。わかってから押せ、というわけだ。

しかし競技クイズの大会では、むしろ「押してから考える」スキルが求められる。参加者のレベルが上がるほど、完全に答えを思いついてから押していては解答権が得られなくなる。「わかりそう」という感覚をよすがに押して、与えられたわずかなシンキングタイム(だいたい3カウントか5カウント。この「カウント」はプロレスの「カウント」と同じで、厳密に3秒や5秒ではなく、答えられそうだと待ってくれたりする)のあいだに、正しい答えを探すことになる。わかったつもりで押してから思い違いに気づき、修正を迫られることも多い。

シンキングタイムの使い方はそれぞれで、おおむね即答するひともいれば、つねに時間いっぱいまで吟味するプレイヤーもいる。ぼくはどちらかといえば後者で、早とちりで誤答するリスクを考えると、シンキングタイムを使わないのはもったいないと思ってしまう。これに慣れると、「押して数秒で考えをまとめる」のがならいになってくる。むしろシンキングタイムの数カウントのあいだが、一番頭が働いている瞬間のように感じる。これは自慢だが、ぼくはシンキングタイムの使い方がかなりうまい。