「自分にとって何が本当に大切なのかとか、目をつぶって見ないようにしてきたことをコロナがはっきりさせてくれたのかもしれないね。」(小林さん)

自分にとって何が本当に大切なのか

小林 そうそう、今まで流しちゃっていたことへの気づきもあった。食べ物を以前よりもちゃんと味わえるようになったとか。ごはんを毎回、ああおいしいなあって味わいながら食べてる。ごはんだけじゃなく、今日は空がきれいだとか、風が気持ちいいとか、生活のなかの小さなことが、味わい深くなった。これは大きな変化かもしれない。

板谷 日頃ルーティンでやってしまっていたことにちょっと気づけたり。

小林 そう。あと、人とのかかわり方が大きく変わったことで、これまでまったく考えてこなかったことを考えるようになった。私は一人で生活しているじゃない? もしもね、ここで具合が悪くなったら、誰に連絡をするんだろう。私はいったい誰に来てほしいんだろう、って。

板谷 ああ、確かにそういうことはコロナでクリアになりましたね。

小林 一人暮らしで、さらに周囲のお店も閉まっていたりすると、宇宙船に一人で乗っているような気分なんですよ。ああ、私ってホントに一人なんだ、と実感した。生活が普通に回っているときは、一人でいるとはどういうことかなんて、あんまり考えなかったのにねえ。それは覚悟を決める時間でもあった気がしています。でも、単純に寂しいということではないんだけどね。

板谷 なんとなくわかる。寂しいとか苦しいといった感情ではなくて、一人という実感。

小林 一方で、よかった部分もある。仕事やおつきあいで、夜、外に出なくてはならないことがこれまではあったけど、それがすべてなくなって、それはすごく楽だった。人恋しさはあるんだけど、人に会う面倒くささからは解放された。

板谷 私も自粛中は、人と会えなくて寂しいとか、会えなくて苦しいと感じることはまったくなかったんです。ところが、自粛要請が解除され、仕事やプライベートで人と会えるようになって久しぶりに対面したときに、超うれしくて。そうか、私は会いたかったんだ、人恋しかったんだ、と気づかされました。

小林 それまで我慢していたんだね。我慢していることに気づかなかっただけで。

板谷 ええ。会いたいのに会えないとか、話したいのに話せないと思うと、それがストレスになるから、無意識に思わないようにしていたのだと思います。

小林 自分にとって何が本当に大切なのかとか、目をつぶって見ないようにしてきたことをコロナがはっきりさせてくれたのかもしれないね。