「俳優の仕事が向いていると思ったことは一度もない。」(小林さん)「私もないです。」(板谷さん)「でも、そのほうが長続きするのかもしれないね。」(小林さん)

「これでいいのかな?」といつも思いながら

板谷 コロナ禍が少しおさまってきた8月に、今年1月15日からWOWOWで放送されるオリジナルドラマ『ペンションメッツァ』の撮影が始まったんですよね。私が演じるのは写真家のフキちゃん。なんとなく悩んでいて、古くからの友だちが営む林の中のペンションを一人で訪ねます。そのペンションの女主人が、聡美さん演じるテンコさん。どこか聡美さんと私のリアルな関係を彷彿とさせるような設定。

小林 そうそう、私はフキちゃんを「久しぶり~」って迎える。

板谷 たぶん、フキちゃんは長い撮影旅行が終わるたびに、テンコさんのところへ行くのでしょうね。会って話がしたくなるんじゃないかな。私が聡美さんに会いたくなるのと同じように。

小林 テンコさんは不思議な力を持っていて、初めて会う人とも古くからの知り合いとも、上手にほどよく距離感をとって話を聞くことができる。私にはとてもできないことだけに、すごいなあ、と思って。

板谷 フキちゃんが自然に囲まれたテンコさんのいるペンションに足を運ぶ理由は、わかる気がします。

小林 長野の自然はすばらしかったよねー。ペンションのまわりはカラマツの林。ちょっと森に入ると、小川があったり、大きな石が転がっていたり。風が気持ちよくて、ホントに居心地がよかった。

板谷 私、自分の撮影が終わったとき、ああ、もう少しこのペンションにいたいなと思いました。

小林 思えば、この企画が立ち上がったのが5月で、私が現地に入ったのは8月。まさに、コロナ禍で世界がどうなるかわからない状況下で作られたドラマだということになるよね。

板谷 そういうタイミングでした。私はフェイスシールドに慣れるまでがちょっと大変だった。

小林 そうだね。新しい習慣の下での撮影だったから。

板谷 難しいなと思ったのは、相手との距離感とか声のトーンなどがフェイスシールドのあるなしで変わってくることです。本番でいきなりフェイスシールドをはずすと、あれっ? てことになる。

小林 あった、あった、すごい違和感が。でも、対話が普通にできない状況で苦労を重ねながら作られたのが、人と人とが出会って、対話をすることをシンプルに描いたドラマ、というのが面白いね。

板谷 本当にそうですね。私は演じているときは俯瞰できないので気づかなかったのですが、完成した作品を観てセリフの深い意味にぐっときてしまいました。

小林 あ、私もぐっときたセリフ、ある! テンコさん、長くペンションを切り盛りしてきたのに、「この仕事が向いていると思ったことは一度もない」と言うんだよね。あああ、私とおんなじ、と思いましたよ。私も、俳優の仕事が向いていると思ったことは一度もない。

板谷 私もないです。いつも、「これでいいのかな?」と思いながら手探りしているみたいな感じ。

小林 でも、そのほうが長続きするのかもしれないね。

板谷 そうなのかなあ。