行司千絵さん(撮影:霜越春樹)
デパート、ショッピングモール、アウトレット……どこへ行っても溢れんばかりの服が売られています。これだけ多くの服が本当に売れるのか? これだけ多くの服が並んでいるのにほしい服が見つからないのはなんでだろう? 服を買うのも着るのも作るのも好きだという行司千絵さんが綴る「服」へのさまざまな思い。じつは彼女の本業は新聞記者。仕事のかたわら週末に服つくりをする生活をかれこれ20年続けているといいます(構成:山田真理 撮影:霜越春樹)

自分が着ていた服を通じて時代を振り返る

京都で新聞記者として働きながら、週末に自宅のミシンで自分や母、知人の服をつくって20年ほどになります。服づくりは独学ですし、ファッションに詳しいわけでもない私が、「これまで着てきた服のこと」や「服をつくりながら感じたこと」をあれこれ綴ったのが、この『服のはなし』です。

私が幼いころに母や祖母がつくってくれた服から、友だちと同じものを探したロゴ入りトレーナー、DCブランド、ファストファッションまで──自分が着ていた服を通してこれまでの時代を振り返ると、服に込められた価値観も、私と服の関係も大きく変わってきたことに気づかされます。

最近、「食品ロス」の問題がよく取り上げられるようになりましたが、アパレルの分野でも同じことが起きています。服を買うのが大好きな私でも、ショッピングモールで、「これだけ多くの服がほんまに売れるんやろか?」と疑問に感じることもしばしばでした。

こんなにたくさん服が並んでいるのに、ほしい服が見つからない。その理由を知りたくてつくり手や服飾の研究者に取材をしてみると、長引く不況で服が売れなくなり、思い切った冒険ができなくなって、人気アイテムのパターンを真似て再生産しているなどの事情が浮かび上がってきたのです。個人的に服をつくる者としても、見て見ぬふりができない問題ばかりで、書きながら考え込んでしまうこともありました。