署名済みの離婚届を突きつけて

夫の言動は、やがて奇行の域に達しました。不潔な格好で外出して近所の人に暴言を吐いたり、嫌がらせをしたり、万引きをしたり……。また些細なことで激怒し、襖や障子に包丁で切りかかる。私も刃を向けられ、「殺される!」と恐怖で震えたこともしばしばでした。

いくら「酒をやめて」と懇願しても聞く耳をもたない夫に業を煮やした私は、ある日、離婚届を用意しました。

「あなたの行動が今後も変わらないのであれば、離婚します。私の署名はしてあるので、今すぐあなたも記入してください」。夫はしばらく黙ってじっと用紙を見ていたかと思うと、くしゃくしゃに握りつぶしたのです。

後日、届をもう一枚もらってきて夫に突きつけると、今度は素直にサインをしたので、「これは預かります」と言いました。

「いつ離婚されてもおかしくない」という状況に追い込まれたことで、夫もさすがにまずいと思ったのでしょう。それからは酒の量を少しずつ減らすようになり、おとなしくなっていきました。亡くなるまでの5、6年は、ほとんど飲んでいなかったと思います。でも、私たち夫婦の間は、とうに壊れきっていました。会話のほとんどない生活を淡々と送り、その関係を修復しようともしませんでした。