2020年の暮れに丘さん夫婦が箱根で作陶した壺。大人一人でなんとか抱えられるほどの大作だ

家造りの知識が豊富な、頼もしい相棒

さっそく見学に行くと、蔵つき、平屋で3LDKという広さの申し分のない家。元は旅館の女将さんが暮らしていたそうで、柱や梁、建具などの造りもしっかりしていました。「この家しかない!」と直感が働き、夫も賛成してくれたのでその場で即決。考えてみると私はいつもそうですね。20歳でスカウトされて女優になったときも、33歳で同い年の夫と結婚したときも。直感に従ってうまくいったことばかり。

すんなり購入に至ったものの、なにしろ1930年代に建てられた家ですから、大幅に改修する必要がありました。当初は1年くらいで改築できるかな、と思っていたのですが、甘かった。とりあえず暮らせる状態にするまでに1年半かかり、今も次々と出てくる不具合と格闘中です。

でも最近はキリがないなと思い始めています。古民家の暮らしに「パーフェクト」を求めること自体が間違っていたのよね。使い勝手のいい家を求めるのならば、新築すればいい。でも私たち夫婦は、すでにできているものではなくて、自らの力で作っていく過程を楽しみたいと思っていたわけですから。むしろこの家はうってつけなのです。

かつて工務店を営んでいた友人たちに内装を手伝ってもらいながら、夫と2人で改築しました。飛行機のパイロットだった夫は、数学を学ぶためにアメリカに留学していたとき、現地の人が納屋を移築する手伝いをしていた人。家造りの知識が豊富で手先も器用な、頼もしい相棒なのです。当時住んでいた箱根の家から、車で片道40分かけて週に5日通い、コツコツと手を入れていきました。