どうしても処分できなかったモノ

私たち夫婦には、家造りに関してある程度の経験値がありました。東京・中目黒の一軒家から、それまで別荘として使っていた箱根の土地に移り住んだのは40代半ばのころ。すべては、私が陶芸に出合ったことから始まりました。夫も巻き込んで夢中になり、「アカマツで火をおこせる窯が欲しいね」という話になりまして。

「カメレオンとゴジラが好きで、よく作るのよ」。飾るだけでなく、体の中に灯りが置けたり、茶器になったりと実用的な作品も多い

「家も自分たちで造ろう」と言いだしたのは夫でした。約900坪の土地に生えていた250本くらいの木を伐採してブルドーザーでならし、ログハウスを建てたのです。陶芸を楽しむだけでなく、自家農園で野菜を育てたり、ミツバチを飼って蜂蜜を採ったりもしました。仕事があるときには東京に暮らす兄の家に泊まらせてもらい、都会と田舎、仕事とプライベートの間を、行ったり来たり。気ままな生活を30年ほど満喫しました。

ただ、歳を重ねるごとに、自然の中での暮らしが負担に感じられるようになってきたのです。零下17度にも及ぶ冬の寒さに耐え、農作物を荒らすイノシシなどの獣とも対峙しなくてはいけない。

夫とも、「70代になったらもう少し楽な生活に切り替えようか」と話し合うようになったのですが、転居するなら体力のあるうちがいいと考え、前倒しして68歳で実行に移しました。「いつか」「そのうち」などと言っている間に、私たちのどちらかにお迎えがこないとも限りませんからね。