斜面の中ほどから家を仰ぐ

日記を書いてわが身の状況を笑う

若い頃の私は、まさか自分が将来こんな生活をするようになるとは想像もしていませんでした。絵を描くのが大好きな文化系少女で、電化製品に囲まれたごく普通のマンション育ち。

その反動なのか、『赤毛のアン』や『アルプスの少女ハイジ』など自然とかかわる物語が好きでしたが、決してこんなサバイバルな生活に憧れていたわけではありません。美大に入学し、ワンダーフォーゲル部に参加したのを機に、幸か不幸か夫との出会いがあり、結婚に至りました。

いまの住まいも「資産価値ゼロ」と言われた古家ですが、子育て期に住んだのも、築50年を超える木造の平屋建て。木の窓枠で、冬は室内の温度が外気温とほぼ同じくらいまで下がる、とにかく寒い家でした。

子どもが幼稚園に行くようになると、どうしてもまわりと自分を比較するようになります。実際、「おまえんち、ボロ家だな」とか言われたのではないでしょうか。

私もマンション暮らしのママ友たちを羨ましく思い、つい愚痴をこぼしてしまうこともありました。ところが夫には「そんな箱みたいなところに住むより、こっちのほうが絶対楽しいぞ」という揺るぎない信念がある。(笑)

そういう住まいで暮らしていると、自然と四季の変化に敏感になります。寒い夜は湯たんぽで暖をとり、立春になると本当に太陽が高くなるんだな、とか。

家のなかにはアシダカグモやヤモリ、ナメクジ、お風呂場にはゲジゲジが当たり前のように出ます。子どもがこぼしたおやつを運ぶアリの行列には最初ギョッとしましたが、そのうち「掃除してくれてるんだ」と思っては、その様子をイラスト入りで日記に書くようになりました。