このウッドデッキでは獲物の解体だけでなく、ストーブにくべる薪割りも行う。奥の階段を降りると、家の土台部分へ。下には広大な斜面が広がる
登山家であり、文筆家の服部文祥さんと結婚して二十余年のイラストレーター・小雪さん。夫は極力装備を持たず、獲物を現地調達しながら山行することで知られる。都会に建つ家には鹿や猪が持ち込まれ、家族で解体まで行うのもしばしば。そんな風変わりな日々は時に、小雪さんに生きものとして暮らすことの意味を突きつけるようで──(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)

こんなにおいしいなら狩猟もいいんじゃない

夫が「狩猟免許を取る」と言い出したのは2005年。当時はまだ長男が小学生になったばかり、次男は4歳、長女は2歳だったと思います。内心「やめて!」と思いましたが、そもそも止めたところで、私の話を聞くような人ではありません。

猟師の見習いからはじめて、そのうちひとりでも猟に出かけるようになりました。最初は現地で解体し、ビニール袋に入った肉だけを持ち帰っていたのですが、まもなく「頭部を食べるんだ」と言って鹿の生首をリュックに入れてくるようになり、鹿が一頭、自宅に運び込まれるようになるまで、そう時間はかかりませんでした。

はじめて鹿が運び込まれた時の衝撃は、いまも忘れることができません。動物であれ、死体が家にあるなんて恐怖以外の何物でもない(笑)。想像以上の拒絶反応がありました。

ところが、子どもたちにはまったく恐怖心がないんですね。「わー、(『もののけ姫』に出てくる)シシガミさまみたい!」などと言って大喜び(笑)。陰からチラ見する私と違って、先入観なしに物事を吸収できるんだなと思いました。

私の意識が徐々に変わっていったのは、解体した肉のおいしさのおかげです。森のような香りと味わいがして、「こんなにおいしいなら、狩猟もいいんじゃない」と原始的な気持ちが芽生えるようになりました。やがて触ってみようかな、解体も手伝おうかな……と段階を踏んで、私も取り込まれていったような感じでしょうか。

解体には、よく切れるナイフが欠かせません。動物を木に吊り下げたら、皮を剥ぎ、脚をはずしてから、精肉を行います。筋肉の構造を知れば、肉のブロックをきれいに切り出すことができるので、私は「もっといい仕事をしたい」と思うようになりました。うまくいくと誇らしいというか、いつのまにか前向きな気持ちで楽しむようになっていたので、われながら不思議です。