「私にとって本屋とは、あくまで自分が訪れる大好きな場所。まさか自分が本屋を開くなんて、想像もしていませんでした。」

書店に関しては、『ふたりとひとり』の100回目に小高工業高校電気科の井戸川義英先生が出てくださったことがきっかけで開くことになりました。井戸川先生曰く、工業高校の生徒たちは本をまったく読まない。なんとか本に対する苦手意識をなくすような講義をしてもらえないか、と。

『ふたりとひとり』に出てくださる方は、謝礼もないのにお時間を割いてくださっている。ですから、お願い事はすべて受けようと思っていました。

そこで工業高校に出かけて講義をしたところ、現国の時間の中で自己表現と文章表現の授業をしてほしいとお願いされまして。本や文章に馴染みのない99人の男子高校生を相手に、スマートフォンなども駆使して22回の授業を行いました。これは正直、なかなかやりがいがありましたね。(笑)

17年4月、避難指示が解除された小高で、小高工業高校と商業高校が統合され警戒区域内に戻ることに。私も避難指示解除に向けての住民説明会に出るようになり、町の様子が心配になりました。

戻る住人がまだまだ少ないなか、通学路に明かりが必要だろう。そのためには店が必要だと考えているうちに、またしても地元の方とのご縁で物件との出会いがあり、本屋を開く流れになったのです。

それまで私にとって本屋とは、あくまで自分が訪れる大好きな場所。まさか自分が本屋を開くなんて、想像もしていませんでした。

いざ始めてみると、地域には意外と本好きの方が多いことに気づきました。ダンテの『神曲』やラブレーの『ガルガンチュア物語』を買った70代の方もいれば、ピアノの先生だった女性の方はロマン・ロランの『ベートーヴェンの生涯』を買っていかれたり。

恰好からおそらく放射性物質の除染作業員であろうと思われる方は、フランスの学者たちが編んだ『男らしさの歴史』全3巻のうち1巻を買ってくれました。作業員寮にテレビがないので、作業が終わったら本を読むのだ、と。浪江町にはまだ除染しなければならないエリアがあり、作業員寮が小高にあるのです。