まさか自分が本屋を開くなんて
15年、柳さんは鎌倉の自宅を引き払い、南相馬に移住。18年には小高でブックカフェ「フルハウス」をオープンする。
移住した理由は二つあります。まず『ふたりとひとり』のために鎌倉から通うのは、時間的にも経済的にも限界がきたのです。そもそも数ヵ月、長くてもせいぜい1年くらいだろうと思って引き受けたわけです。結果的に6年続きましたが、「閉局までやります」と約束したので、途中でやめるという選択肢は私にはありませんでした。
もう一つは、原発とどう向き合うかという問題です。事故が起きた直後の12年当時は、避難指示区域以外にも、特定避難勧奨地点が設定されていたりしましたから、ここに住んでいいのだろうかと迷っていた方が大勢いました。農作物からセシウムが出たりもしましたし、そんな場所で子どもが暮らすべきではない、という声も。
私もたびたび福島に行っているため、すごく批判されました。風邪をひいただけで、福島に通っているからだとネットで叩かれたり。
通っている私でさえこんな目にあうのだから、住んでいる方たちはどれほど苦しんでいるのか。あるいは、三世代同居で孫の成長を見るのが楽しみだったのに、子ども夫婦が自主避難したため、孫と会えなくなったという声も聞きました。そんなふうに、暮らしの中に苦しみや悲しみがある。
そういう方々と接しているうちに、私だけ安全圏の鎌倉に住んでいるのが精神的に苦しくなってきて、同じ場所で暮らしながらお話を聞きたいと思うようになったのです。15年、ちょうど息子が高校に進学するタイミングでしたので、いい機会だと思って。息子も同意してくれ、引っ越しを決めました。