「廃炉という、前例のない困難な仕事に挑む人が何千といる。彼らはどのようなことを考えているのか聞いてみたい、と心が強く動かされた」(稲泉連さん)撮影:藤岡雅樹
東日本大震災をテーマに『命をつなげ』『復興の書店』といった著作を世に出してきたノンフィクション作家の稲泉連さん。新刊『廃炉ー「敗北の現場」で働く誇りー』では、福島第一原発を取り上げている。(構成=本社編集部 撮影=藤岡雅樹)

前例のない困難な仕事に挑む人々

ノンフィクションを書き始めた20 代の頃から、「働くこと」への関心が常に自分の根底にありました。2011年に発生した東日本大震災後に取材したテーマも、東北の大動脈と呼ばれる国道45号や、被災した書店などの現場で働く人々を追ったものです。2冊を書き上げてもなお、震災のことが心から離れず、取材を続けていました。

初めて福島第一原発を訪れたのは、17年の9月のことです。当時、町の一部が帰還困難区域内だった双葉郡大熊町内は静まり返っていましたが、ひとたび原発の敷地に入ると、作業服を着た人が大勢行き交う「仕事の現場」が突如として現れました。廃炉という、前例のない困難な仕事に挑む人が何千といる。彼らはどのようなことを考えているのか聞いてみたい、と心が強く動かされたことからこの本の取材が始まりました。

『廃炉  「敗北の現場」で働く誇り』稲泉連・著、新潮社

廃炉には、社会から常に厳しい視線が向けられています。家族や友人から原発の仕事をすることを反対された人も多かった。しかし、彼らは“誰かがやらなければいけない仕事”だと認識したうえで福島にやってきて、働き続けていたのです。