東京電力の若手社員たちがどう受け止めているか
話を聞くときは、現場で直面した問題やその解決法、働くモチベーションなどを具体的に尋ねていきました。そんななかで、心の中に抱えていた思いを取材対象者が時折ポロッと話してくれるときがあります。事故を起こした会社のために働くことへの葛藤や悩み、自分が見出した仕事の意味など。自然と出てきたその言葉を、大切に書きとめようと思いました。
この本でもうひとつ書きたかったことは、“事故の記憶の継承”です。発生から10年が経ち、現場の世代交代も進みました。廃炉には最低でも30~40年の時間が必要と言われていますから、事故の記憶を風化させないための取り組みは重要です。現場で共有された記憶を東京電力の若手社員たちがどう受け止めているかも、掘り下げていきました。
原発事故のどのような側面を見つめ、それをどんな視点で描くのか、政治的な主義や主張と切り離すことも難しいテーマですから、常に悩みながら取材・執筆を続けてきました。ただ、廃炉がどのように行われているのか、その作業に携わる人たちにとってどんな意味を持っているのかは、知っておいたほうがいいはず。ひとつの“仕事”をめぐる本として、先入観なく読んでもらえたらと思っています。