2015年、スペイン バスク地方の食の都、サンセバスチャンでバル巡り。夫婦で旅にでかけ、土地の食事を楽しむのが大好きだった

私の希望の光は「オプジーボ」

7月になると、今度は背中が痛いと言うので整形外科へ行ったり整体に行ったり。検査を受けてわかったことですが、その痛みはがんの転移によるものでした。

夏にはせめて酷暑から逃れようと、静岡県の御殿場に部屋を借りました。夫と愛犬と一緒に40日くらいゆっくりできたのですが、明日には引き払うという8月31日に夫が高熱を出したのです。コロナ禍のこんなときに、近所の病院へ連れて行くというわけにはいきません。それで東名高速をクルマで飛ばして、主治医のいる東京の病院へ。夫は肺炎を起こしていて、そのまま入院することになりました。

翌日、私は再び御殿場の部屋へ。夏の間持ち込んだ荷物を一人きりで引き上げたのですが、あの心許なさは忘れられません。もしも一人になったら、こういう感じになるのかなあ、なんて考えてしまって。それは絶対イヤ、絶対ならない、と自分に言い聞かせました。

あのときの私の希望の光は「オプジーボ」という新しい免疫治療薬でした。食道がんでの適用は、春先に承認されたばかり。主治医の先生は「体力があるから、まずは抗がん剤をやって、オプジーボは最後の切り札にしましょう」と。だから、とにかく肺炎を治そう、それで、治ったらオプジーボだ、と思って。

でも、10月に入って腸へ栄養を入れる腸ろうの設置手術を全身麻酔で行ったところ、せん妄の症状が出て、酸素濃度がどんどん低くなって。数日後には、人工呼吸器をつけることになりました。検査をすると、気管の周囲に転移して大きくなっているから、気管を切開して人工呼吸器を装着することに。この1、2週間でも、がんがどんどん広がっていることは明らかでした。