どんなときも「ドンマイ」な人
実は、このインタビューをお引き受けするのは、とても勇気のいることでした。それでもやろうと思ったのは、お話しすることで、起こったことを「現実」にしたかったからです。もう夫には会えない。そのことを私自身がわからなければ。そう思って、今ここにいます。
19年の夏、夫が喉のあたりに違和感があると近くの病院へ行きました。お医者さんにあまり行きたがらない人なので気になりましたが、喉には問題なし。それで、翌週、内視鏡検査を受けたのです。その病院から電話がかかってきました。「みっちゃん、ごめんね、食道がんだった」と。「大丈夫だよ、食道がんでは死なないよ」と返したけれど、あとで調べてみて、生存率の低さにびっくりしてしまいました。
夫は、どんなときも「ドンマイ」な人なので、ショックを私には見せませんでした。食道がんの原因であるお酒とタバコをめぐっては、それまで軽いバトルを何度も繰り返しています。それでも、ベランダでのタバコや寝酒のウイスキーが習慣でした。だから、ごめんごめんとひたすら謝って。
夫は「死」から最も遠いタイプの人だったから、私はショックでした。彼は運が強いし、亡き両親も90代まで元気だった長寿の家系。たぶん夫自身も、がんで死ぬとはこれっぽっちも考えていなかったでしょう。
その後、大きな病院へ行って詳しい検査を受け、ステージIIIと診断されました。すぐに抗がん剤治療をスタートし、手術も受けて、食道を切除。それでよくなってくれれば、と思っていたけれどそうはいきませんでした。年が明けて20年の1月には胸郭に転移が見つかったのです。
また抗がん剤治療、加えて放射線治療が始まりました。がんは薬で叩いて一時的に小さくなっても、またすぐに大きくなってしまいます。そんななか私は、病院での治療に加えて、免疫療法やら民間療法的なもの、さらに鍼やアロマオイルなど、がんに効くかもしれないありとあらゆるものを調べて集め、夫に勧めました。