ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。自身の受験の時、母がとった行動について思い出したスーさんは……(文=ジェーン・スー イラスト=川原瑞丸)
神頼みの境界線
あれは高校受験の時だったか、それとも大学受験だったか。母親が、普段からの付き合いがまったくない近所の寺だか神社だかを、ことあるごとにお参りするようになった。なにがきっかけでそれを知ることとなったかは覚えていないが、不思議に思って尋ねると、「あなたの受験が成功しますようにってお願いしているの」と、母は答えた。
神社仏閣に「お願い」をすることが適切か否かは、この際脇に置いておこう。まったく勉強が捗らない、なまくらな娘は母の言葉を聞いて思った。そんなことをして、なにになるのだろう?と。
神通力という言葉がある。本来は仏や菩薩などが持つ超人的な力を指す仏教用語だが、俗語としては、通常ならありえないようなことがらを成就させる力を示す言葉として使われている。
母が頼ったのはこれだと思った。いわゆる「神頼み」だ。娘は娘なりに頑張ってはいるが、どうにも集中力が続かない。志望する学校に合格する水準まで学力も伸びていない。あとは、神に頼むしかない。娘はそう思われたのだな、と。