玉の海の無念さを思う

北の富士さんは、朝乃山が土俵際の逆転で阿武咲(おうのしょう)に勝ち、次の正代が北勝富士に負けたとき、朝乃山と正代の稽古不足を猛烈に指摘した。そして、昭和45年に北の富士さんと同時に横綱に昇進し、双葉山の再来といわれるほど期待されながら27歳で急死した玉の海の話をした。「玉の海は、自分より上の力士が部屋にいなかったが100番くらい稽古をしていた。いろいろな工夫をして、後ろから押させたり、片足で相撲を取ったりしていた」というのである。

私は、玉の海の本格派の四つ相撲が大好きで、努力、責任感、与えられた場で最善を尽くす姿勢に人間の生き方を学んでいた。私は高校生だったが、その死に運命の過酷さを知った。

道半ばでこの世を去った玉の海の無念さを思うと、優しい気持ちで、いまの大関を見ていられなくなった。「感動相撲を見せろ!」と、私は家の天井に向かって叫んだ。

でも、中日まできて大関以外は勝敗に関係なく一所懸命さが伝わってきた。十両の炎鵬は体が元にもどり、復活の動き。炎鵬は中日に宇良に負けて、くやしそうな顔がよかった。明日に繋がるくやしさだ。

翔猿は勝っても負けても気っ風がよくて見ていて気持ちがいい。7日目には高安と宝富士の2分59秒という長い相撲が見ごこち満点。その高安は、中日に照ノ富士に体を密着させたうまい相撲で勝った。高安は現在7勝1敗の単独トップ。照ノ富士は、怪我と病気で序二段まで落ちてから大関復帰を目指すというのがすごくて大注目で6勝2敗。小結の高安、関脇の照ノ富士は元大関だ。元大関と現大関の闘いが見もの。

中日までの教訓というよりは格言は、北の富士さんのお言葉「大関は頑張るのが仕事。ここで頑張らなければいつ頑張るんだ」です。

JR両国駅の改札口には歴代横綱の手形が押された色紙が展示されていて、玉の海関(上)と北の富士関(下)は並んで飾られている(撮影:編集部)

※次回は3月28日の予定です

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