大相撲春場所が開幕しました。新型コロナウィルス感染症の影響で、会場は従来の大阪府立体育会館から東京・両国の国技館に変更、観客数も減らしているため、会場に行けず残念がっている相撲ファンも多いことでしょう。『婦人公論』愛読者で相撲をこよなく愛する「しろぼしマーサ」こと、土屋雅代さんもそのひとり。深い相撲愛について綴った読者手記「初代若乃花に魅せられ相撲ファン歴60年。来世こそ男に生まれ変わって大横綱になりたい」が評判を呼びました。そこで長い観戦経験と豊富な知識をもとに、この春場所期間、テレビ観戦記を寄稿してもらうことに。第2回は「土俵入りはすべてを語る」。初日の取組を見たしろぼしさん、印象に残ったのは?

第1回●「初日を前に祈りを捧げる」

3場所ぶり出場の横綱・白鵬、調子はどうか

高齢化する日本において、相撲ファン歴60年以上を誇る人は多いのではないだろうか。

しかし、テレビの前で白鵬に合わせて不知火型の土俵入りをしている65歳以上の女性は、そんなにいないと思う。

私は来世には男に生まれ、大横綱を目指そうと子供の頃から心に誓っている。しかしだからといって土俵入りを今から練習しているわけではない。土俵入りは、邪気を払う神事である。私ごとき者は恐れ多くてできないのだが、白鵬の調子がわかるから、衰える老体を酷使してやっているのだ。

千代の富士が53連勝した頃、あの土俵を抑えつけるような見事な土俵入りには合わせられなかった。私は若かったが、息が続かず、床にへたりこみ、母に「正しい四股を学ばないと腰をやられるぞ」と注意された。

で、白鵬だ。不知火型の魅力である足で地を抑え込み、腕を広げグッグッと天を持ち上げるような力の美を見たい、と思ったが残念でした。白鵬は体調を確かめ、頭で考える土俵入りだった。昨年の7月場所以来、3場所連続休場だから仕方ない。本場所の中で体調を盛り上げ、背水の陣を頭脳で乗り越えられるかどうかが見どころと判断した。

白鵬の初日の相手は先場所優勝の大栄翔。コツコツ努力する職人さんの渋さで応援したい大栄翔だが、白鵬が大好きな張り差しをかましたので、惜しくも寄り倒されてしまった。塩を取りに行くときの白鵬をご覧になりましたか? 体中の気合いを取り戻そうという足の踏み方から、横綱の必死さがうかがえた。