イラスト:岡田里
出産や育児でキャリアや夢を諦めざるをえない、いわゆる「マミートラック」は女性活躍推進のためには解消しなければならない問題。しかし、そのためにあるはずの制度はまだまだ物足りず、結局は親の支援抜きではやっていけないという子育て世代は多いのではないでしょうか。
一方でたまらないのは、頼られる親のほう。親子関係が崩壊する引き金にもなりかねません。学生結婚した娘を持つ垣本さん(仮名・57歳)は若くして親になった夫婦を助けるべく、孫を育てることにしたのですが──。「孫育て」のリアルがここに。

事務所の一角にベビーベッドを置いて

先週の日曜日、近所のスーパーで娘婿と三番目の孫を見かけた。声をかけようかと一瞬迷ったが、そのまま姿を見送る。婿は現在隣県で単身赴任中だが、毎週末家に戻り、4人の子どもを遊びに連れて行ったり、家事のサポートをしたりしているらしい。「らしい」というのは、私たち夫婦の家と娘家族のマンションは歩いて1分も離れていないものの、一番上の孫息子としか会えていないからだ。

娘夫婦は県外にある大学の医学部の同級生。サークルで知り合い、20歳で《できちゃった婚》をした。向こうっ気の強い娘は休学もせず実習を頑張り、出産当日まで大学に通った。しかし、出産後はそうもいかない。幸い私と夫は自営業で比較的自由がきくため、卒業までの3年間、孫を引き取って育てることにした。

夫と営む事務所の一角にベビーベッドを置いてミルクを飲ませる。3歳からは保育園に預けて、病気になるたび病院に連れて行った。二十数年ぶりの子育ては負担が大きく、心身ともにストレスが溜まり、やり場のない怒りからよく夫婦げんかをしたものだ。若い娘夫婦にとっては、子育てを免除され、さぞ楽しい新婚生活だったことだろう。

2人はめでたく医師国家試験に合格。それを聞いたとき、「ようやく肩の荷が下りた」とホッとした。私たちの家と保育園の近くに娘家族のマンションを探してやり、彼ら3人の生活が始まるが、孫は実の親になかなか懐かない。「おばあちゃんの家へ帰りたい」と泣かれたのが面白くなかったのか、娘夫婦はだんだん私たちから孫を遠ざけるようになった。