後半戦に入っている大相撲春場所ですが、休場していた横綱・鶴竜が3月24日に引退を発表しました。この場所中、テレビ観戦記を綴っているのは『婦人公論』愛読者で相撲をこよなく愛する「しろぼしマーサ」こと、土屋雅代さん。60年以上大相撲を見続けている相撲ファンは、このニュースをどのように受け止めたのでしょうか。昨日の引退発表を受け、緊急寄稿してもらいました。

※「しろぼしマーサ」誕生のきっかけとなった読者手記「初代若乃花に魅せられ相撲ファン歴60年。来世こそ男に生まれ変わって大横綱になりたい」はこちら

第3回「正代、朝乃山、貴景勝よ、感動相撲を見せろ」はこちら

病気の父と、千代の富士の引退

横綱の鶴竜が春場所11日目に引退を発表した。

5場所連続休場のすえ、本場所で相撲を取ることもなく、土俵を去ることになった。年寄「鶴竜」を襲名するという。日本国籍も取得しているので、親方になり、今後は後進の指導に当たって欲しい、などと、私は簡単には書くことができない。

横綱の引退とは、すごいことなのである。

相撲に興味のない人にもわかってもらえるように、私のような一般人の例を紹介する。

私の父は平成3年にある病院に入院し、とんちんかんな薬と注射により、頭が朦朧として別人になってしまった。他の病院から派遣されていた若い医師が「これはおかしい」と言い出し、父を抱えて別の病院に連れて行き、そこに入院したのである。母は「主人を脱走させてくれてありがとう」とその医師に感謝したが、私は、思い切ったことをしたその医師が医師の世界で生きていけたか、といまだに心配している。

改めて入院した父に会いに行く前に、横綱の千代の富士引退のニュースを聞いた。私は朦朧とした父に、「千代の富士が引退したよ」と言うと、急にもとの父の顔に戻り、「そうかい、引退しちまったのかい、おしいねぇ」とはっきりとした江戸弁で言い、その後また朦朧状態になったのである。私は驚愕し、横綱の引退の重みを受け止めた。

相撲に興味のない人は、この脱走事件のほうが気になると思うが、かなり後に、父は10万人に一人の割合で発症すると言われる進行性核上性麻痺という難病であることがわかった。