踏ん切りをつけるときは
鶴竜の話に戻る。私は地味な鶴竜に注目していなかった。しかし、彼が力士になりたい、入門したいということを手紙に書いて、モンゴルから日本の相撲関係者に送った、という話を新聞か雑誌で読んで、気になりだした。そんな情熱的な入門話は珍しいからだ。それゆえに、力の衰えを本場所の土俵で自覚して、後輩に託す形で引退したかっただろうと思う。
11日目のNHKテレビの解説者だった舞の海さんは、鶴竜のことを、「おそらく、なんとしてももう一度土俵に上がって、踏ん切りをつけたいと思っていたが、逆算して、次の5月場所にまにあわないと思ったのではないか」と語っていた。
私は、鶴竜も、休場している白鵬も、体がついていかないのに気力だけは充分あるから、横綱審議会から注意されても引退できないのだと思っていた。親方株の取得がどうのというのは、この際、別の話である。
鶴竜と白鵬の連続休場や引退しないのかということが話題になるたびに、私が思い出す一冊がある。ノンフィクション作家の沢木耕太郎先生(たぶんご本人は「先生」と呼ばれるのはお嫌いだろうが、私は家の本棚にその著書を30冊並べていつも拝んでいる)が勝負の世界に挑み、そして燃え尽きたスポーツ選手を描いた『敗れざる者たち』だ。
体が衰えても、戦いに挑みたい、いつか、いつか……しかし、そのいつかは来ないことが、納得できないのである。
本日の教訓は、知り合いの相撲ファンの一言。「横綱は惜しまれて辞めるのが一番です」
※次回は3月28日の予定です