いよいよ千秋楽を迎えた大相撲春場所。3日目には横綱白鵬が休場、そして11日目には横綱鶴竜が引退を発表と、大きな動きがありました。この場所中、テレビ観戦記を綴っているのは『婦人公論』愛読者で相撲をこよなく愛する「しろぼしマーサ」こと、土屋雅代さん。千秋楽、最後の力をふりしぼり土俵に上がる力士たちに長年のファンとして心からのエールを送ります

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高安は「取組編成負け」

照ノ富士ファンの方々、14日目は花道から顔を真っ赤にして気合いが入り、顔つきからすでに朝乃山に勝っていましたね。11勝3敗で単独トップ。千秋楽は気合い相撲の貴景勝。大関と元大関の闘い、もう眠れません!

高安ファンの方々、がっかりしてますよね。単独トップに立ちながら、連敗したこの状態を、私は「取組編成負け」と名付けた。13日目に体重が軽くても稽古で鍛えた体があれば押せるよ、ということを今場所証明している若隆景、14日目は僕の人生は動くことにある、と土俵ではじける翔猿。そんな二人を、渋い相撲が魅力の高安の前に連日登場させてはいけません。動きに翻弄され、調子が狂い、微妙なところで負けてしまった。かき乱された心と相撲を整えられるかが、高安の勝負だ。

前頭12枚目の碧山も4敗で、不気味な存在感を示している。

千秋楽を前にすると、小学生だった頃の夏休みの宿題を思い出す。私のいた小学校はたっぷり宿題が出た。夏休みの初日に、「昨年の夏休みのように、あわてて宿題をするようなことはしない」と決意する。しかし、またもや8月下旬に焦り出し、なぜもっと早く宿題をやらなかったのかと後悔し、こんなに苦しい小学生は日本にいない、とさえ思った。クラスの友達も同じで、両親に助けを求める。かくして、お父さんの作品、お母さんの文字のドリルが提出されることになる。

しかし、大相撲はそうはいかない。土俵に上がれば力士は孤独だ。自分の力だけで勝たなくてはならない。師匠が、優勝の望みがなくなった力士や千秋楽に7勝7敗で土俵に上がる力士に、「もう、だから言ったでしょ。早く勝っておけばいいのに」と、お母さんが夏休みの宿題をやっていない子供を叱るように言ってもむなしい。