イラスト:大高郁子
還暦を過ぎて新しい仕事を始めたら心身に張りのある日々が得られる? 特に身体を動かす仕事で得られるものは、お金だけでなく、人それぞれに《いいこと》があるようです。60歳を超えてそんな職を得た女性たちに話を聞きました。たとえば66歳で仲居をしている信世さん、72歳で花の配達をしている佳代子さんの場合は――。(取材・文=野原広子 イラスト=大高郁子)

立ったり座ったりの給仕で10kg減量

仕事に就いて3ヵ月で10kg体重を落としたという人がいる。中部地方の温泉地の料理旅館で住み込みの仲居をしている信世さん(66歳)だ。

1日5組限定の料理旅館での信世さんの持ち場は、食事処。朝は徒歩30秒の寮から《出勤》する。午前7時から12時半までの5時間半と、夕方17時からの4時間が勤務時間だ。その間にまかない料理を食べ、短い休憩をはさむ。住居費、食費も光熱費もかからないから、生活費は月1万円以内。わずかな期間で痩せられた原因を聞くと、「夕飯の給仕ですね」と明るい声が返ってきた。

「コース料理は10品をお出しして、お酒のサービスもあるので、座敷で立ったり座ったりを1日何十回も繰り返します。山あいにあって朝夕は涼しいのでクーラーはありません。でもひたすら身体を動かすから、お給仕する身にはこの夏は暑くて。両手がお盆でふさがっているので、額の汗を拭うこともできませんでした。

コースの中には炭火で焼く料理もあり、タイミングを見て火をつけます。分刻みの仕事は、この歳になって初めてしました」

住み込みの仲居になったのは、65歳で公務員を退職した時、ハローワークで見つけて、ここだ! とひらめいたから。翌月には大きなスーツケース1つで家を出て、働き始めていた。その行動力はどこから来たのか。