山田詠美さん(撮影:本社写真部)
数多の作品で男女関係の奥深さを追求してきた作家の山田詠美さん。今回の著作『血も涙もある』で選んだテーマは「倫理に非ざること」。不倫騒動が耳目を集める今、妻と年下の夫、そしてその愛人の3角関係を描いた理由とは(構成=朝山実 撮影=本社写真部)

「世間の正義」を強要しようとするゆがみ

最近、私が違和感を抱いているのは、自分の倫理観に合わないと有名人を猛烈にバッシングする人たち。たとえば道にゴミを捨てることと、人の夫と恋愛すること。2つはまったく違う領域のことなのに、「世間の正義」を強要しようとする。そのことのおかしさや、ゆがみを書きたいなと思いました。

これまで「不倫」という言葉を作品で使わないようにしてきたんですが、今回は「倫理に非ざること」を書くために必要だったので、たくさん出しています。(笑)

書き方も、これまでにない方法を取りました。カリスマ料理研究家の喜久江と、その年下の夫でイラストレーターの太郎。そして喜久江の助手で太郎の恋人の桃子、この3人の独白で構成するもの。

『血も涙もある』(著◎山田詠美 新潮社)

読んだ人から「懺悔室での告白のよう」と言ってもらいましたが、実は18世紀フランスの貴族社会を描いたラクロの『危険な関係』をやってみたかったんです。俯瞰した目で、登場人物の誰にも肩入れせず、自分の「倫理」を大事にする3人の関係を冷静に書けたかなと思います。