走馬灯の影絵があの世に誘っているように
1回目は、小学校3年生の夏休み前に、疫痢に罹って死にそうになりました。原因は生梅を食べたことだと大人達は言っていましたが、はっきりしたことはわかりません。食べ物に飢えていて、寄生虫が感染すると言われていたカワニナも石で潰してそのまま食べたりしていたので、原因はいくらでも考えられます。
疫痢は赤痢が重症化した病気で、伝染病予防法(1998年に廃止され感染症法が制定されました)で指定されていて、隔離しなければならないことになっていました。といっても、病院もない山奥の村ですから隔離施設があるわけでもなく、ただ家で寝ているだけでした。
最初のうちは、5分おきぐらいに便所に行っていました。そのうち便所に行っても水のようなものしか出なくなり、意識は朦朧としてきました。ぼくが寝ている頭の上には、お祭りで買った小さな走馬灯がぶら下がっていました。朦朧としながらその走馬灯のゆっくり回る影絵を見ていると、何だかあの世に誘われているみたいで、もうじき死ぬんだろうなと思っていました。
医者に診せなかったら多分死んでいたと思いますが、見るに見かねた父親が町の病院から医者を呼んで来て、その医者が打ってくれたペニシリンで助かったのでした。
そのペニシリンがかなり高価だったので、父親に打ってもいいかどうか医者が聞いたら、「ちょっと考えさせてくれ」と言ったそうです。子どもが死にそうになっているのに、「考えさせてくれ」はないだろうと思います。そのくせ、「ワシがペニシリンを打ってくれと頼んだから、昭は助かったんじゃ」と、恩着せがましいことをのちに聞かされることになります。