1階席後方から周囲を見回すと、誰もが開演を待ちわびてソワソワしている様子。私はといえば、場の雰囲気にあたふたするばかり……。いざ幕が上がると、場内は割れんばかりの手拍子と掛け声でなんともいえない熱狂に包まれる。周囲に圧倒されながらも、私も気づけば大声を出していた。

ああ、氷川くんかっこいい──。持参したオペラグラスを活用しながら、「これが前方の席だったら」と欲も出てくる。終演近くになると席を立つ人がチラホラいて気になったのだが、出待ちをするのだと警備員さんに教えてもらった。

それなら、私も出待ちをしてみよう、とコンサートの余韻にどっぷり浸りながら待つこと1時間弱。氷川くんが車の窓から手を上げて、ゆっくりと頭を下げながら通過していった。疲れを感じさせない、舞台とはまた違う氷川くんの表情を見て、ファンクラブに入ってよかったと、心の底から思ったのだった。

 

これなら、同じ舞台に立てる!

それからは、近県で行われるコンサートには欠かさず出かけるように。慎重派の私にとって、遠方の慣れない場所へ行くのは不安な気持ちがあり、また働いているとはいえ、交通費のことを考えると勇気が出なかったのだ。

しかし、ファンクラブに入会して5年が過ぎた頃、お芝居と歌を楽しめる公演が東京で開催されることを知る。例の後輩の「時には冒険してみたら」という後押しもあって、東京まで出かけることを決意。どんな服装で行こうかと思い悩んだ末、目立てば氷川くんの目に留まるのではないかと思い、着物にした。