お布施の額は、ネット上で得た情報を頼りに

墓じまいのときに高額な離檀料を請求されることもある、とテレビで見たので不安だったが、特にトラブルもなく進められた。どうしてもわからなかったお布施の額は、ネット上で得た情報を頼りに、10万円にした。

コロナ下ということもあり、墓じまいは昨秋、私と次男でひっそりと行った。菩提寺を訪ねて、墓前で住職に供養をしてもらう。義父母のお骨は、改葬を請け負った業者がいったん引き取った。納骨日まで保管してくれるのだ。帰り際、「もうここに来ることもない」と感慨がこみ上げた。一つの歴史が終わった気がする。次男は、「さみしいね」と呟いた。

墓石ができたと石材店から連絡が入り、見にいくと、ピンクがかった石に桜の絵が刻んである。「井川家」としたものの、家紋は入れなかった。私が選んだ、私たちのお墓だ。以前あれだけ一緒のお墓に入りたくないと思っていた義父母に対する気持ちも、この墓計画を進めるうちに、軟化していた。「私たちが建てたお墓に、入れてあげる」と思えるようになった。

いまの私に、墓への思い入れはとくにない。だが、若くして亡くなった夫の最後の望みだから、新しい墓前で供養をしてあげたかった。お墓は、遺された者たちのやるせない気持ちを癒やしてくれる場所。そう気づかされる。

これで本当によかったのか。いまも、ときどき考える。夫が生きている間に墓計画を進めたかったこともあり、息子たちの意思をはっきり聞いていないからだ。29歳の長男は遠方で働いており、10歳下の次男はまだ学生。どちらも墓を守れない可能性はある。負担をかけたくないから、墓地は、管理費が年2000円と少額の公営にし、寺の檀家にもならなかった。墓じまいする場合も楽なのではないか。

いずれ、息子たちが結婚するときが来たら、きちんと話し合わなくてはと思っている。墓を建てたことは、私と夫の自己満足なのかもしれない。だが、夫の思いがこもったあのお墓なら、守ろうと思ってくれるのではないかと、かすかな望みを捨てきれない自分もいる。


※婦人公論では「読者体験手記」を随時募集しています。

現在募集中のテーマはこちら

アンケート・投稿欄へ