「起こしてください、わたしを」
入院手続きを済ませて病棟に入り、入院患者しかいないフロアに行くと、途端に空気が変わって浮世から離れたような気がした。
部屋は2人部屋の奥で、窓からは森のような緑が見えた。ようやく一息ついた、と思ったが、入院にあたりいろいろと説明を聞くことになり、何枚もの書類に目を通しサインをした。何しろ忙しかった。
夜は、主治医の似鳥先生から手術の説明があった。手術の前に気管支鏡をし、場所をきちんと把握すること。術式は胸腔鏡下右肺上葉区域切除、5時間ほどで終了、術後の経過をみて3~4日ほどで退院できると思います、と話があったあと、聞かれた。
「どなたか手術の時にいらっしゃいますか?」
「来ないです」
「あ、そうですか。連絡、緊急で、もしさせていただく場合は、どうしましょうか」
「起こしてください、わたしを」
「ははは、そうしますか!」
「ごめんなさいね、笑っていただいて」
「ご家族にはお伝えになってないですか?」
「はい、娘はまだ小学校2年生ですから、入院のことは伝えてなくてですね。
離婚しておりまして、まあ前の旦那さんには入院のことは伝えていますが、何かあれば会社から連絡が行くようにしてあります。
母は名古屋にいるんですけど伝えてなくて。母は病気してまして、まあ、心配かけたくないといいますか。まあ、その、付き添いなしで手術したいのですが、すみませんが、なんとかならないですかね」