イラスト:小川かなこ
長年の一人介護の末、母を見送った後、襲う虚無感。そこから抜け出すために、野末さん(仮名)が考えたマイルールとは――

食卓にたくあんを噛む音が響く

17年間の介護を経て、5年前、母を見送った。いまだに真っ暗な自宅に帰ることに慣れない。長年の介護から解放されたものの、母の年金はすべてなくなり、収入はゼロ。仕事もない。私はこれからどうやって生きていこう、と途方にくれ、体重が一気に6キロ減った。

独学で資格を取り、社会復帰は果たしても、将来の展望が描けず、ネガティブなことしか考えられなかった。体重はさらに減り、肋骨が浮き出るまでに。同居する家族がいれば、母の思い出を話して悲しみを分かち合うことができたかもしれない。

小学6年の時から、母と2人で暮らしてきた。不謹慎な話だが、母の存命中から時々、ひとり暮らしになったら、こんなことをやりたい、あんなところに旅行したいと、夢見ていた。しかしいざひとりになると、まったく気が乗らない。家族がいるという前提があってこそ、ひとりになれる時間が楽しめるのだと痛感した。

残り物を温めてとる食事は、わびしさのうえにやるせなさを塗り固めていくようなものだ。テーブルの向かいに母がいて、なんやかやと話を混ぜ返しながら食べるからよかったのだ。家の中はひっそりとして、何の音もしない。わざと大きな音でたくあんを噛んでみたりする。

いつまでも落ちこんでいられないので、立ち直る方法を考えた。

(1)「今日つらい思いをするかもしれないが、それはこれから幸せになるために必要なものだ」と自己暗示をかける。

(2)家族連れを見ても平静でいられる鈍感力をつける。

(3)ひとり暮らしを楽しめるようになってきたら「シングル力」がついてきたな、と自分を褒める。

……しかし、行く道は険しく、心が折れそうになる。