製パン技術を糧にして

私は学生時代から東南アジアへの寄付活動を続けていますが、夫の死後、フィリピンの山岳少数民族が住む村の図書室に、遺産の一部を使って蔵書を寄付する活動もはじめました。未来を担う子どもたちの力になりたい。そう思う一方で、「この子たちが社会に出るまで、私は元気に生きているのかしら」と考えなくもない(笑)。成人した若者を支援して、この目で成果を見られたら――職業支援に力を注ぐようになった背景には、そんな思いもありました。

なぜそれがパン工房だったのか。外国人が関わる職業支援といえば、素朴だけどセンスがいまひとつな民芸品や土産もの(笑)。観光客は慈悲で買うけど、一度買えば十分じゃないですか。現地の人の生活に必要なものをつくらなければ、持続しないと思ったのです。

私は20代のころ、趣味でパンづくりを習っていたことがあり、よくパンを焼いては友人にふるまっていました。基本的な技術やレシピだったら、私が教えてあげられる。計量から製パンまでひとりでできればこの先の就職に役立つし、オーブンを買えば自分でパン屋を開くこともできるかもしれない。

プノンペンには海外チェーンのパン屋も数多く進出していましたが、かつてフランス領だったこともあって硬いパンが主流。でも日本と同じ米文化のカンボジア人は、実はやわらかいコッペパンも好きなんじゃないか、と考えました。もう、思いつきの連続です。