経営にかかる資金は、すべて持ち出し

やわらかいパンなど食べたこともなく、おいしいかどうかもわからない彼らに、試行錯誤でこね方や発酵、成型を教え、何度も練習させて。手はじめにホテルやカフェに置かせてもらっています。経営にかかる資金――たとえば店の家賃、スタッフの給料、材料費などは、すべて私の持ち出しです。

私の目的は「ビジネスをする」ことではなく、「製パン技術を身につけてもらい、生活を保障する」ことなので、コロナの影響で取引先が休業や廃業しても、店に住むスタッフが焼く数百個のパンは、孤児院やホームレス、コロナ病棟の医療従事者などに毎日寄付しています。

2020年4月、コロナ下で失業した貧困地域の人々に、米や缶詰、醬酒を寄付する小谷さん。この地を買い、農業や食堂をはじめる計画を立てている(写真提供=小谷さん)
パンを寄付することで、子どもたちに学校にきてもらおうと考えた(写真提供=小谷さん)
ロックダウン中、貧しい人々はネットで食料を買うこともできない。「オーサカ・ベーカリー」は外出許可を得てパンを寄付。写真はゴミ収集で生計を立てる人に渡したところ。こうした経験に、スタッフがやりがいを感じてくれれば、と小谷さんは願う(写真提供=小谷さん)

いずれ感染が収まったら、プノンペン郊外の土地を買い、農業や食堂をはじめる計画もあります。貧しい地域で、両親が出稼ぎに出るために育児放棄された子どもたちがたくさんいますが、地元で収入を得られれば、家族が一緒に暮らせる。いまのスタッフたちが村の人にパンづくりを指導できれば、さらに夢が広がるなあ、と考えています。