濡れたシーツは「すぐ乾く!」

またSさんは、なぜか一度に複数の仕事をこなそうとする。検温しながらオムツ交換もし、ゴミを集めながら点眼やガーゼ交換もするというふうに。だが、こっちの患者さんのオムツを広げたまま、あっちの患者さんの血圧を測るのには感心しない。

しかもひとつひとつの仕事が雑で、しょっちゅうシーツを汚したり濡らしたりする。そんな時にはたいてい院長がやって来て雑な仕事ぶりが見つかり、「Sさん、仕事は慎重に」と注意されるのだ。それでも「大丈夫、これくらいすぐ乾く!」と気にもしていない。

医療機関には「ヒヤリハット」という過誤防止のための取り組みがある。ミスがあった場合、文書報告することで同じミスを防ごうというものだ。Sさんは「ヒヤリハット」の数がズバ抜けて多い。

似た名前の薬を取り違えたり、使用済みの注射針を置きっぱなしにしたり。特に、院長に何回も注意されているのが、電子カルテのキーボードの近くに缶コーヒーを置くこと。もしコーヒーをこぼしたら、電子カルテが故障し大変なことになる。

なのに、Sさんはミスをするたびに、「また見つかった〜。ねえ、何て書けばいい?」と無邪気に聞いてくるのだ。しかもSさんの文章は誤字脱字だらけ。院長に赤ペンで添削されて返ってくる。それを見てSさんはガハハと笑いながら、「また返ってきた〜」と、いたって明るい。いつも5〜6回直してやっと受理される。

どうも、みんなもミスするのに、たまたま自分だけ見つかる回数が多いと思っているようだ。もちろん反省も勉強もしないから、同じミスを何度も繰り返す。

同僚は優しい人ばかりなので、何も言わずにSさんをフォローしてあげている。彼女に注意しても、右から左に抜けていくことをみんなわかっているから。看護師同士、波風を立てないようにしようという職場なのだ。