上野 なぜ!? 仮に意識がなくなったらどうなさるの?

澤地 10歳下の弟が隣にひとりで住んでいて、鍵も持っているから、見つけてくれるんじゃないかしら。

上野 妹さんに「来ないで」と言った後、どうなさったんですか?

澤地 倒れたままじっとしていました。午後3時くらいに弟が来て、ベッドに寝かせてくれて――。

上野 え~っ、じゃあ4時間もそのままで! その間、救急車を呼ぼうとは思わなかったんですか?

澤地 思いませんでした。ものも言えない、というぐらいの痛みで。それにその半年くらい前に、朝、目が覚めたらそれまで経験したことのないような耳鳴りがして、救急車を呼んだことがあったの。でも検査したら特に異常はなく、ひとりでタクシーに乗って帰ってきたので、またそうなるんじゃないかと思って。

 

もう死ぬのは怖くない

上野 澤地さんはいろいろな身体の不具合を経験なさっていて、医療機関ともおつきあいがありますよね。しかも20年前に圧迫骨折を経験なさっている。

澤地 旅先の輪島で。そのまま70日も寝て過ごしました。

上野 こういう時、誰に連絡すればいいとか、考えておられませんでしたか?

澤地 そんなこと考えて暮らしていないわ。(笑)

上野 あら、そう。私はいろいろなケースをシミュレーションして考えていますよ。

澤地 あなたは周到だから考えるでしょうけど、私は考えないの。

上野 はぁ~(笑)。じゃあ、弟さんに病院に連れていってもらったのですか?

澤地 行かなかった。

上野 えぇっ! なぜですか?

澤地 90になってごらんなさい。もう死ぬのは怖くないのよ。いつ終わるかわからない人生だと思っているから、お医者さんにかかるという気はないの。

上野 あのですね、今の時代、そう簡単に死ねないんですよ。

澤地 私はこれまでに28歳、38歳、64歳と3回心臓の手術をして、今では僧帽弁と大動脈弁は正常には働いていないんです。だから何かあったら、すぐ死ぬと思うの。

上野 そんな0か1かみたいな話。そこが澤地さんらしいのかな(笑)。私がなぜ介護の研究をしているかというと、今の時代、0から1の間にグレーゾーンがいっぱいあってなかなか死ねないからです。

澤地 あらぁ、困ったわねぇ(笑)。でも、こんなに長生きするとは思っていなかったから、すでにおまけの人生です。