『三人の女たちの抗えない欲望』著◎リサ・タッデオ訳◎池田真紀子 早川書房 2640円
今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『三人の女たちの抗えない欲望』(リサ・タッデオ著、池田真紀子訳/早川書房)。評者は詩人でエッセイストの白川公子さんです。

長い取材の先で生まれた魂の軌跡の物語

禁断なる衝撃的告白に、ページをめくる手が止まらない、迫真のノンフィクションである。

タイトルからわかる通り、ここには3人の女性たちが登場してくる。高校時代、恋愛関係にあった教師を、性的虐待で告訴することになる大学生のマギー。二児の母親リナは、セックスレスの夫との別居を決心した矢先、高校時代の恋人と再会し、ダブル不倫に陥ってしまう。レストランオーナーとして成功しつつも、夫が選んだ第三者を交えた乱交生活を送っていたスローン。そんな女性たちの愛と性のかたち、欲望の行方、苦悩と傷心の姿を追ったものだ。

訳者あとがきによれば、女性たちへの取材は8年間にも及ぶという。よくぞ途中で挫折しなかったものだ、と驚嘆してしまうほど「事実は小説よりも奇なり」の展開、赤裸々な告白、揺れる心情が綿密にすくい上げられている。

特に印象的なのはマギーの場合だろう。甘い思慕からはじまった教師との恋愛関係。本文を読む限りどちらかといえばマギーのほうが積極的だったし、慎重で狡猾な教師(既婚)は、最後の一線を越えることはなかったようだ。若気の至り、黒歴史として封印してもいいはずの体験なのに、なぜ告訴に至ったのか? 裁判経過も取材しているのだが、案の定、マギーは、世間からの猛バッシングに晒されることになる。

著者は3人の女性に対し、内面深く入りこむときもあれば、冷たく突き放して客観的に見ているときもある。その距離の取り方が異様な緊張感を生む。そこから浮上してくるのは、読み手の共感も批判も同情もはねつけるほどの「ありのまま」と「傷ついた魂」の姿だ。これは失われた尊厳を取りもどすために苦悩し、闘った女性たちの魂の軌跡の物語でもある。