『片をつける』著◎越智月子 ポプラ社 1760円
今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『片をつける』(越智月子著/ポプラ社)。評者は詩人でエッセイストの白石公子さんです。

終活とは「人生で得た収穫を見つけること」

主人公はアラフォーの阿紗。絵本読み聞かせの仕事をしながら、亡き母親が残したマンションで一人暮らしをしていた。ある日、隣に住む謎の老婆・八重を助けたことにより、彼女の汚部屋の片づけを手伝うことになってしまう。

それまで片づけられなかった人が、身辺を整理して人生観がガラリと変わる、というのはよくある話だ。この物語がそれらと少し違うのは、片づけるのは隣(他人)の部屋で、生活雑貨メーカーで働いていたことがある阿紗は、独自の片づけメソッドを持っているということだ。阿紗の手によって八重の部屋が少しずつ片づいていく様子が興味深い。やがて「ヨハネ」という名のコノハズクを飼い、シスターになりそこねたと話す八重の過去が少しずつ明らかになっていく。

同時に阿紗のほうにも、政治家の愛人だった母のもと、荒れ果てた部屋に閉じ込められていた子どものころの辛い記憶が蘇ってくる。八重のわけあり人生に思いを馳せながら、自分の過去に向き合うとき、片づけは終活の様相を呈していくのだ。

「思い切って捨て去ると、見えなかったものが見えてくる」「清々しいくらい自由になれる」、終活というのは「身のまわりのもんをどんどん仕分けして、この人生で得たいちばんの収穫を見つけることだ」。

片づけの果てに紡ぎだされたフレーズが沁みる。断捨離、終活、毒母、メルカリ、おひとりさまの老後、看取り、家族とは? 人とのつながりとは?……コロナ禍の「今」を感じさせるキーワードが続々と登場してくる。そして人生の収穫を見つけるために、阿紗の片づけメソッドに沿って自分の部屋の片づけをしたくなってくるのだ。ステイ・ホームの「今」読むべき旬の一冊である。