原宿カウンセリングセンターの所長として多くの人の相談に乗ってきた信田さよ子さん。今年5月に退職したからこそ、新著『家族と国家は共謀する』を執筆できたという。その理由は(構成=寺田和代 撮影=本社写真部)
コロナ禍で家庭内の問題が浮き彫りに
1995年に設立した原宿カウンセリングセンターの所長職をこの5月に退きました。これまで家族関係について多くの本を書いてきましたが、この本は立場上、関係者に配慮して発言を控えてきたテーマに踏み込んだ初の著書です。
「家族と国家」という書名にピンとくる人も多いかもしれません。家庭や私的領域で起きる問題は、国の政策や法律に強く影響され、女性や子どもなど立場の弱い人ほど安全や生存が脅かされています。力を持つ人が持たない人を支配する「政治的な場」という意味で、家族と国家は相似形だと考えたのです。
なぜここまで踏み込んだか。いちばんの理由はコロナ禍で家庭内のさまざまな問題がこれまで以上に浮き彫りになったことです。DVや児童虐待、性暴力の増加は統計でも明らか。国の法律が変わらなければ救える命も救えません。家族や親しい間柄で起きる問題にも、政治的な視点が欠かせないと考えたのです。
それを伝えるには新しい言葉が必要でした。たとえば「被害者権力」はその一つ。被害者が新たな加害者に転じてしまうことを指しています。