「穂子さんが閉じられた関係から飛び出して子育てをしてくれたおかげで、今の僕があるんだと思うよ。」(土さん)

 そう確信できたことが、穂子さんのすごさかな。映画を見た人の感想のなかには、ああいう環境はうらやましいけれど、他人に子どもを託すのは怖くてできないという声がけっこうあった。

 

他者と関われない社会は生きづらい

穂子 今は子育てにしても、たとえば保育士さんとか、専門のスキルのある人が担う社会でしょう。子育てに限らず、ケアが経済のシステムに組み込まれて、お金を出して安全性を担保する。だから、まわりの人たちと力を出し合ってやっていく、みたいなことが、難しくなってきているかもしれない。

 他人に対して心を許さない社会になっているよね。

穂子 他人は「怖いもの」という認識で、他者とのかかわりを排除することで安心を得るような社会になっているから。

 でもそういう社会は、みんなが生きづらいな。

穂子 私もそう思う。そういう排除の光景を見て育った人は、自分が親になった時も、そうなっていくだろうし。しかも今、新型コロナのこともあって、人を遠ざける理由がどんどん増えているからね。

もうひとつすごく気になるのは、世の中には多様な人間がいて、いろいろな考えがあるから面白いはずなのに、そう思えない人が増えている。狭い価値観の中で生きていたら、そこに自分を合わせなくてはいけないと思って、どんどん選択肢が少なくなる。結果的に追い詰められて、どんどん生きづらくなると思うな。

 僕が感謝しているのは、小さい頃から、世の中にはいろいろな人がいるんだと体験的に教えてもらえたこと。学校に通っているだけでは絶対に出会わないような変わった人たちが、家の中にいっぱいいたし。穂子さんが閉じられた関係から飛び出して子育てをしてくれたおかげで、今の僕があるんだと思うよ。