目の病気やケガを乗り越え自宅で暮らす

88歳になるAさんは、都内のマンションでひとり暮らしをしている女性です。加齢黄斑変性で目が見えにくくなったことで、周囲から「施設に入ったほうが安心では」と言われていました。

しかし、長年織物の作品づくりや指導を続けてきたAさんは仕事場のある自宅に愛着があります。当時は愛猫もいたことや、夫を自宅で介護して看取った経験もあって、「できれば自分も最後まで自宅で過ごしたい」という希望をお持ちです。

私たち訪問看護師がお手伝いを始めたのは、Aさんから「眼科医に目の手術を勧められているけれど、迷っている」という相談を受けたためでした。

よく聞いてみると、「必要なら手術はするけれど、お医者さんが私の目を見て話してくれない」と不信感を抱いていることがわかりました。そこで受診先の看護師を通じて担当の医師にAさんの気持ちを伝え、私も当日に付き添って医師の説明を伝える支援を行い、無事に手術を終えることができたのです。

現在は介護保険を使ってヘルパーが週2回、看護師が週1回、自費でメッセンジャーナースが週1回伺ってAさんの生活を支えています。住み慣れた自宅なので、目がほぼ見えない状態でも生活はできる。これまで何度か自宅で転倒して骨折していますが、幸い寝たきりにならず、1ヵ月ほどの入院で自宅に戻ることができています。

最近、トイレで転倒してドアの隙間にはさまり身動きがとれなくなったことがありました。ちょうどヘルパーが訪問してきて事なきを得ましたが、再び周囲からひとり暮らしを危ぶむ声が上がったのです。

私がAさんに、「転んだときに慌ててジタバタすると、ますます起き上がれなくなります。『私、意識はあるんだわ』と確認できたら、そのままじっとして。それからゆっくり一呼吸してから立ち上がってみてください」とアドバイスしました。その後は、転倒からの問題は起きていません。

二十数年にわたるお付き合いのなかで、織れる作品も小さくなりつつも、毎年のように新作を見せてくださるAさん。おひとりさまで大往生というご希望を叶えるため、私たちもできる限りお手伝いを続けたいと思っています。