何もできなかったことを後悔する人も
林 引きこもりをテーマに書くのは、正直、気が重かったです。でも私は希望を描きたかったので。父親が命がけで闘ってくれる姿を見たら、変われる可能性もあるのでは、という思いを込めました。
斉藤 今はSNSが発達しているぶん、いじめがより陰湿になっている。僕は、先生にも相談できないとなった時に、「誰かに相談するのは大事だ」「家族は味方になってくれる」と思ってくれたらいいなと思って発信しました。
林 お母さまはそれで初めて知ったのですか?
斉藤 なぜ気づいてあげられなかったのかと、自分を責めていました。でも、必死に隠していたし、仕方なかったと思う。母は当時、自分のクラスで問題を抱えている子に何をしてあげられるか、どう思う? なんて話を家でも僕によくしていて。自分の親ながら、こんな先生ばかりならよかったのにな、と思いました。
林 そうですよね。読者の方からは、どんな反応がありましたか?
斉藤 お手紙もたくさんいただきましたし、ある学校では僕がいじめを公表した映像を授業に使い、生徒たちが一人ひとり感想を書いてくれた。意外に多かったのは、「自分はいじめの加害者にも被害者にもならなかったけれど、いじめを見たことがある。自分がその時何もできなかったことを、いまだに後悔している」と。
林 加害者は忘れてしまい、被害者は何年経っても忘れない。そして見ていた人は、何かしら心に残るんでしょうね。
斉藤 そうだと思います。あと教師の方からも、「この記事をきっかけに、自分にできることを模索していきたい」というご連絡をいただきました。それを読んで、発信してよかったと思いましたね。
林 お話を伺っていて、斉藤さんは過去の経験があるから、人を攻撃しないし、ますます優しい人になった気がします。
斉藤 でも、たまたまこんなふうに仕事ができているだけで、今もいじめが原因で引きこもったりしている人と、内心は同じだと思います。いじめなんか、絶対、経験しないほうがいい。でも僕の場合はそれがなかったら、傷ついている人に寄り添えなかったかもしれません。
林 私は自分の経験や取材を通して、学校の役割が本当に重要だと感じたので、教師のお給料をもっと上げて、優秀な人が集まるようになってほしい。それと、いじめられた子のSOSを受け止める相談センターも、もっと増やしてほしいと思います。