何もできなかったことを後悔する人も

 引きこもりをテーマに書くのは、正直、気が重かったです。でも私は希望を描きたかったので。父親が命がけで闘ってくれる姿を見たら、変われる可能性もあるのでは、という思いを込めました。

8050という深刻な社会問題をテーマに、いじめをきっかけに引きこもりになった青年と家族の再生を描いた小説『小説8050』(林真理子:著/新潮社)

斉藤 今はSNSが発達しているぶん、いじめがより陰湿になっている。僕は、先生にも相談できないとなった時に、「誰かに相談するのは大事だ」「家族は味方になってくれる」と思ってくれたらいいなと思って発信しました。

 お母さまはそれで初めて知ったのですか?

斉藤 なぜ気づいてあげられなかったのかと、自分を責めていました。でも、必死に隠していたし、仕方なかったと思う。母は当時、自分のクラスで問題を抱えている子に何をしてあげられるか、どう思う? なんて話を家でも僕によくしていて。自分の親ながら、こんな先生ばかりならよかったのにな、と思いました。

 そうですよね。読者の方からは、どんな反応がありましたか?

斉藤 お手紙もたくさんいただきましたし、ある学校では僕がいじめを公表した映像を授業に使い、生徒たちが一人ひとり感想を書いてくれた。意外に多かったのは、「自分はいじめの加害者にも被害者にもならなかったけれど、いじめを見たことがある。自分がその時何もできなかったことを、いまだに後悔している」と。

 加害者は忘れてしまい、被害者は何年経っても忘れない。そして見ていた人は、何かしら心に残るんでしょうね。

斉藤 そうだと思います。あと教師の方からも、「この記事をきっかけに、自分にできることを模索していきたい」というご連絡をいただきました。それを読んで、発信してよかったと思いましたね。

 お話を伺っていて、斉藤さんは過去の経験があるから、人を攻撃しないし、ますます優しい人になった気がします。

斉藤 でも、たまたまこんなふうに仕事ができているだけで、今もいじめが原因で引きこもったりしている人と、内心は同じだと思います。いじめなんか、絶対、経験しないほうがいい。でも僕の場合はそれがなかったら、傷ついている人に寄り添えなかったかもしれません。

 私は自分の経験や取材を通して、学校の役割が本当に重要だと感じたので、教師のお給料をもっと上げて、優秀な人が集まるようになってほしい。それと、いじめられた子のSOSを受け止める相談センターも、もっと増やしてほしいと思います。