ある日、プツンと糸が切れて
僕がひきこもりになったのは、中学2年生の夏。関西でそこそこ名の知れた中高一貫の進学校に通っていたのですが、登校途中に「大」のほうを粗相してしまい、それをクラスメイトに知られた(と僕は思っていた)のがきっかけでした。
コミュニケーションのうまいやつなら、「あ、臭う? 実はウンコもらしてん」と笑ってしまえたのかもしれませんが、僕はずっと優等生キャラだったので、プライドが邪魔をしてピエロを演じられなかったんです。
そこで何か、自分の中でプツンと糸が切れたというか。たぶん、それまですごく無理をしていたんだと思います。自宅から学校までは電車を乗り継ぎ2時間近くかかるうえ、朝夕のラッシュ時は圧死しそうなほどの混雑ぶり。林立するサラリーマンの足の間で母親の作ったおにぎりを食べることもありました。
部活のサッカーも一生懸命やっていたので、帰宅はいつも夜の8時過ぎ。それから宿題や予復習を済ませて、寝るのは日付が変わる頃……。中学生の子どもには明らかに負担が大きかった。
でもこの生活は、誰に強制されたわけでもないんですよ。小学生時代、児童会長に選ばれるくらい一目置かれていた僕は、自分より地味なタイプの同級生が中学受験をすると聞いて「え、じゃあオレも」と、親に無理を言って受けさせてもらったんです。
わざわざ電車に乗って私立中学に通っているのは、地元では僕くらい。オレ、すごいやろ? そんなイヤらしい優越感、いや「神童感」が、通学しんどい、勉強しんどい、同級生の家はみんな金持ちで公務員家庭のわが家との格差がしんどいってことを、なんとかカバーしていたんでしょうね。
「ウンコ事件」から間もなく夏休みに入ったのですが、それまでの僕なら1週間くらいで終えているはずの宿題に、まったく手がつけられない。サボっている感覚はないんですよ。「オレは頭がええから、明日から頑張ればすぐできる」と思っているうちに、明日があさってになり、しあさってになり、気がついたら夏休みの最終日になっていたのです。
始業式の朝、僕はベッドから出られませんでした。宿題をせずに学校に行くなど、優等生の自分には考えられないこと。そのままずるずると不登校になるわけですが、そのときも「明日は行く」「1週間もらったら、宿題なんてちゃちゃっと片づけて復帰しますわ」という感覚でした。