古文書オタク同士の会話はマニアック
3ヵ月ほど家族以外の誰とも会わず、鬱々と落ち込んでいたという。そんなとき友人から「古文書講座」を見つけたと知らせが入る。
「観劇に行った先でチラシを見たとかで、情報をくれたんです。もともとやりたかったことだし、沈んでばかりもいられないから、重い腰をあげて講座に参加してみたら、すごく楽しくて。没頭できるし、つきものが落ちたように元気になりました。
古文書講座では友達もできたんですよ。コロナ禍の前は帰りにみんなでお茶したり、京都へ旅行に行ったり。いつも『この字はどう読むの?』とか、『展覧会に本邦初公開の文書が出るから見に行ったほうがいいよ』とか、古文書オタク同士の会話はマニアック(笑)。個人的な話は一切なし。踏み込んで来ない関係なのもラクでいいんです」
受講者のなかには、老人ホームから通う80代の女性もいるという。
「すごく素敵な方でね。好奇心や向上心はいくつになっても衰えないのだなと、刺激を受けています」
現在は会社員時代の経験を活かして、フリーランスで校閲の仕事をしている。
「できないことに目を向けるのではなく、まだまだできることはいっぱいある。そう気づけたから、新しいスタートを切れたんだと思います。
目下の目標は、古文書をすらすら読めるようになって、日本の中世の本にかかわる仕事をすること。趣味と実益を兼ねた生き方を見つけられ、ますます燃えている今日この頃です」
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取材を進めるなかで気づいたのは、誰にでも落ち込む時期はあるけれど、少し心を休ませたら、対象が何であれ自分の「好き」という気持ちに従って行動してみるのが大事だということ。
一歩踏み出し、状況が変われば、気持ちも前向きになる。その原動力となるのは、せっかく生まれてきたのだから笑顔で生きたい、という意欲なのではないだろうか。