おばあさんの役が楽しみだった
東 最近、つくづく考えることがあって。日本の芸能界では、「若い」ことが何より重視されているじゃない? 男性は年齢を重ねても尊重されるけど、私たち女性はキャリアをあまり認められていないようで、「劣化した」だとか「もう上がり」だとか言われがちでしょう。
池上 うんざりするほど。
東 この先、仕事は減っていくいっぽうだなって考えるのよ。
池上 たしかにそう。
東 それなら「若さ」を求められることから距離を置きたいなと思って、グレイヘアにしようと決めました。今はまだ途中だけれど。
池上 実は、昨年中止になった舞台の『八つ墓村』で、おばあさんの役をやる予定だったの。私は「女優としてのチャンスだ」と思っていたわけ。こういう役もできるんだとインパクトを与えたかったし、精神的にも、年を取ることを怖くない自分に切り替えられるんじゃないか、と。
東 何歳くらいの設定?
池上 70代か80代。
東 それは見たかったなぁ。私もこの前、ドラマで70代の役をやったけど、ああいう役が来るようになってちょっとうれしかった。
池上 去年やるはずだった舞台は、ほかにもシェイクスピア劇や現代劇などジャンルが幅広くて、私としては理想的だと思っていたのよ。
東 それが全部なくなったら、そりゃあ気持ちが落ちるよね……。ネガティブ思考とかそういう問題ではないと思う。気持ちが落ちるほうが、むしろ健全。
池上 そうか、なんだかホッとした。
東 今日、ここに来ることができたということは、かなり心が回復しているってことよね。
池上 11月に出た舞台がきっかけだと思う。小さな劇場で、舞台にまだ慣れていない若い人たちが多かったのね。最初はどう仕上がるのかなと不安だったけど、その子たちが毎日懸命に稽古する姿が、落ちていた私を初心に戻してくれたの。「やってよかった」と心から思えた。