「きちんとした会場が用意されて、最初からお客さんがいることは当たり前じゃない。人に歌を聴いてもらえることは、ものすごく幸せなことなんだと改めて気づかされました」

義理や人情に触れたストリートライブ

デビュー前の修業期間中、事務所スタッフの方のすすめで週2回、路上で演歌を歌うストリートライブを行っていました。場所は、赤羽・錦糸町・大塚・巣鴨といった、下町を中心としたエリア。歌うのは、昔、祖父母と一緒にカラオケで歌っていた曲です。まだ上京して1年ほどで土地勘もなかったうえ、知らない街の路上で歌うのはものすごく勇気がいりました。

ヘッドセット(マイクのついたヘッドホン)を着けて、ちっちゃいスピーカーでカラオケを流しながら歌っていたものの、夜はお酒に酔った方などもいて、「怖い人が来たらどうしよう」「どこかへ連れていかれたらどうしよう」とビクビクしっぱなし(笑)。しかも、すぐには立ち止まって聴いてもらえないんですよね。あれはなかなかキツかった……。

それでもあきらめず試行錯誤しながら続けるうちに、足を止めてくださる方がぽつりぽつりと増えはじめて。なかには「若いのに私たち世代の歌を歌ってくれてありがとう」と声をかけてくださる方や、寒い日に温かいお茶やおにぎりを差し入れてくださる方もいて、人の温もりを感じました。

気がついたら、最初は怖いと思っていた街がとても素敵な場所になっていました。演歌の世界に登場する、義理とか人情とかいったお金では買えないものは、すべてあのころのストリートライブで味わったと思っています。きちんとした会場が用意されて、最初からお客さんがいることは当たり前じゃない。人に歌を聴いてもらえることは、ものすごく幸せなことなんだと改めて気づかされました。

おかげで今では、どんな場所でも恥ずかしがらずに歌えるようになりましたし、大きな会場でも緊張しない自信があります。しかもデビュー後、なんと赤羽商店街の親善大使にも任命していただけたんです。赤羽は、まさに自分の原点になりましたし、若いときにこういう経験をしておいて本当に良かったと思っています。