「イエスの方舟」集会で話す千石さん(神藏美子写真集『たまきはる』より)

竜宮城のような「シオンの娘」で

「イエスの方舟」には、一般の人も参加できる集会が月に一度ありました。聖書の真意をもっと知りたいと思いその集会に参加したのは、1987年の終わり頃だったと思います。場所は博多の中洲にある、「イエスの方舟」の女性会員が運営するスナック「シオンの娘」でした。スナックといってもかなり広い店で、ステージがあって、そのステージを囲むように20人ほどが座れる馬蹄型のカウンターがあり、カウンターの中にはグランドピアノが置かれていました。そのステージに白い布が掛けられた演台が置かれています。

カウンター席には「イエスの方舟」の方々(ほとんど女性)が並んでいて、入ると『詳訳聖書 新約』が渡されました。しばらくして、ステージの演台に、黒い詰襟の服を着た「おっちゃん」こと千石剛賢さんが座りました。「今日は東京からお客さんが見えられてます。なんや飛行機で来たゆうてはるけど、飛行機いつ落ちるかわかりまへんで」と言いながら、聖書の話に入りました。会員の人が朗読する聖句を、おっちゃんが解説していくのですが、その話が面白くて、この講話が本になればいいなぁと思いながら聞いていました。

初めて集会に参加してから、「イエスの方舟」集会が待ち遠しくなりました。皆さんが優しくしてくれるし、博多に行くと開放感がありました。集会は日曜日なので、土曜日に行って「シオンの娘」に寄り、日曜日の午前中の集会に参加し、午後は中洲や天神でパチンコをして、夕方飛行機で帰るというパターンが多かったと思います。

最初に「シオンの娘」に行った時のことはよく覚えています。集会の時とは打って変わって、馬蹄型のカウンターのなかに、腰から下がフワッとしたピンクのドレスを着た女性会員が5、6人いて微笑んでいました。真っ白い着物を着た女性もいました。竜宮城というか、黄泉の国というか、何とも不思議な感じがして、夢を見ているような気持ちになりました。

接客担当の女性達は、カウンターのなかに座ってお客さんと話をします。聖書の話は、聞けばしてくれるようでした。「ヤクザは来ないんですか?」と聞いてみると、「時々来られますけど、すぐ帰ります」と言います。水商売特有の殺気のようなものが全くなく、ほわぁ〜んとしているのです。ヤクザも場違いなところに来たと思って帰るのかもしれません。

「シオンの娘」はショーが有名で、ショーを見るために来るお客さんもいるようでした。ショー専門の女性達による、歌謡ショー、剣舞、フラメンコ、藤圭子ショーなど、バラエティに富んでいます。特別料金を払うと、グランドピアノでクラシックを演奏してくれるようで、お客さんが何千円か払っていました(このピアノを弾く女性会員は、親に強制されてピアニストになるはずでしたが、中学の時ピアノに失望し、親にも失望し、人生にも失望して「イエスの方舟」に入った方で、そのことを知っていたので、切ない気持ちになりました)。